「コーチング」という言葉は、その語源をたどると「馬車(coach)」に由来します。馬車は人を目的地まで運ぶ乗り物。現代風に言えば、タクシーのような存在です。
タクシーは、行き先が明確だからこそ機能します。「なんとなく移動したい」というだけでは、どこへ向かえばいいのかわからず、ただ乗っているだけになってしまいます。
これは、コーチングにも当てはまる話です。
タクシーに乗るときの前提 ─ コーチングにも共通する「目的地」の明確さ
タクシーを利用するシーンはさまざまですが、共通するのは以下のような状況です:
- 到着時間に間に合わないと焦っているとき
- 荷物が多く、時間効率を重視したいとき
- 徒歩や公共交通機関よりも合理的な選択だと判断したとき など
どのシーンでも、共通する前提は「目的地があること」。目的地がなければ、そもそもタクシーに乗ろうとは思わないはずです。
そして、乗車後まず行うのは、「行き先の伝達」です。希望するルートがあればそれも伝えます。
その情報があるからこそ、タクシーは安全かつスムーズに目的地へと向かうことができるのです。
この点は、コーチングも、まったく同じです。
コーチングの出発点: ビジョンと目的の言語化
コーチングの初期段階では、クライアントが目指す長期的なビジョンを言語化するところから始まります。「どんな未来を実現したいか」「どんな状態になりたいか」という問いに対して、自分の価値観や理想を言葉にしていきます。
そのビジョンに対して、「なぜそれを実現したいのか?」という目的 (動機・背景) も掘り下げていきます。
ただし、ビジョンや目的は抽象的な表現になりがちです。そこで、次に必要になるのが、「何がどうなっていたら、それが実現したと言えるのか?」という問いへの答え。つまり、「目標(ゴール) 」です。
SMARTな目標設定: 具体性と現実性のあるゴールを設定する
コーチングに限った話ではないですが、目標設定は曖昧な願望ではなく、SMARTの原則に基づいて設定すると良いです。

目標を細分化すると見える道筋
SMARTの原則に基づいて設定した目標を、さらに分解していくと、「プロセスゴール(中間成果)」が浮かび上がってきます。プロセスゴールも上位概念の目標と同様、SMARTの原則に基づいて設定します。
海外駐在員Tさんのケースで見てみましょう。
- 氏名(仮):Tさん
- 年齢・職位:30代後半、日系メーカーの営業マネージャー
- 背景:来月からアメリカへ3年間の海外駐在予定。英語・文化・マネジメントへの不安あり
- 想い:現地スタッフと信頼関係を築き、自分の言葉で成果を生み出すリーダーになりたい
ビジョンと目的 (Tさんの場合)
- ビジョン:英語で現地スタッフやクライアントと対等に議論・交渉し、駐在先で成果を出す営業リーダーになる
- 目的:グローバルキャリアとしての実績をつくり、帰任後も海外案件を任される存在になる
複数の目標 (ビジョンをSMARTの原則に基づいて言語化したもの)
分野 | SMART目標 |
---|---|
語学力 | 6ヶ月以内にTOEICスコア850点を取得する(現在700点) |
対人関係構築 | 駐在後3ヶ月以内に現地チームの主要メンバー5人と1on1を実施し、関係性に関するフィードバックを得る |
プレゼンテーション | 駐在後6ヶ月以内に英語での営業プレゼンを3回実施し、最低1件の商談獲得に成功する |
異文化理解・適応 | 渡航前までにアメリカのビジネス慣習に関する書籍を2冊読了し、現地スタッフへの質問リストを10件用意する |
語学力に焦点を充てたプロセスゴール
語学力目標の中でも進捗が可視化しやすいTOEICスコアに焦点をあて、目標をさらに分解します。
目標: 6ヶ月以内にTOEICスコア850点を取得する(現在700点)
【プロセスゴール1】リーディングセクションで450点を取得
- 1-1:2ヶ月以内にビジネス英語単語帳を1周し、模試で80%以上の語彙正答率を達成する
- 1-2:3ヶ月以内にPart 6・7で時間内に80%以上正答できるスピードと精度を習得する
- 1-3:5ヶ月以内に公式模試でリーディング450点以上のスコアを安定して出す
【プロセスゴール2】リスニングセクションで400点を取得
- 2-1:1ヶ月以内にPart 1・2の正答率を90%以上に安定させる
- 2-2:3ヶ月以内にビジネス英語Podcastを毎日30分聴き、90%以上の理解を目指す
- 2-3:6ヶ月以内に公式模試でリスニングスコア400点レベルを達成する
このように最終目標から逆算して細分化していくと、具体的な行動が少しずつ見えてきます。
セッションゴール: 1回の対話で扱う「小さな目的地」
コーチングセッションでは、上記のプロセスゴールをもとに、毎回「セッションゴール (小さな目的地)」を設定します。
例えば
- 「長文読解にかかる時間が長くなる原因を探りたい」
- 「Podcastを継続できていない理由と対策を明確にしたい」
- 「プレゼン練習に対する自己評価と改善ポイントを明確にしたい」
こうしたセッションゴールを積み重ねることで、大きな目標への到達が可能になります。
「何をしたいかわからない」状態でのコーチングは…
時には、「将来何をしたらよいか分からない」という漠然とした状態でコーチングを受けようとする方もいます。もちろん、コーチはそのような状態にも寄り添い、問いかけを通じて想いや価値観を掘り起こすサポートをします。
ただし、完全に行き先が見えていない状態では、対話が停滞してしまうこともあるのが事実です。
どのような状態でコーチングセッションを受けても、その瞬間は「受けてよかった」という感想を持っていただけるかもしれません。しかし、その先が描けなければ、目的地のないタクシーに乗って、運転手と雑談しているだけの状態に似てしまいます。
コーチングは時間単位の対話。距離に関係なく、乗っているだけでもメーターは進むということを考えると、目的地(ビジョン)をある程度明確にしたうえで臨むことが、より有意義な時間につながります。
対人支援の選択肢と「想い」の重要性
コンサルティング、カウンセリング、コーチングなどは、どれも対人支援の手段ですが、大切なのはそれを受けようと思った「想い」があるかどうかです。
- 現状を打破したい
- 明確なアドバイスがほしい
- メンタルを整えたい
- トラウマを克服したい
どんなアプローチであっても、「こうなりたい」「今を変えたい」という想いがあれば、どの支援も意味を持ちます。
その想いがあるからこそ、コーチングという手段が真価を発揮すると考えています。
コーチングは「どこに向かいたいか」が出発点
コーチングは、ただ受けるだけでは進みません。
行き先があるからこそ、コーチという伴走者とともに歩みを進められる。
その旅には、次のような5つの地図があります:
- ビジョン ― どんな未来を描きたいか
- 目的 ― なぜその未来を目指すのか
- 目標 ― 何を達成したらビジョンや目的実現と言えるか
- プロセスゴール ― 目標に至る中間的な成果
- セッションゴール ― 1回の対話での具体的テーマの目的地
その地図を持ち、あなた自身が描いた未来に向かって、一歩を踏み出してみませんか?
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