公開日:2025年5月9日
最終更新日:2025年5月9日
アメリカの人事部所属または給与計算業務に携わる方にとって、”Exempt Employee”と”Nonexepmt Employee”という用語は非常に重要です。
これは、FLSA (Fair Labor Standards Act | 公正労働基準法) 1, 2, 3という連邦法に基づき、従業員の賃金や労働時間の管理のルールを大きく分かれることを意味します。
本記事では、その基本的な仕組みと具体的な分類方法について解説します。
1. Exempt / Nonexemptの基本的な違い
Exempt Employee
FLSAが定める「最低賃金」や「時間外割増賃金 (= 残業代) 」の保護対象外となる従業員です。
多くの場合、サラリー (年俸または月給)制で支払われ、業務内容や責任、給与水準が一定基準を満たす必要があります。
記録保持義務も一部免除されます。
Nonexempt Employee
最低賃金や残業代 (週40時間超の労働に対する割増賃金) の支払いが法律で義務付けられています。例えば、時給制のスタッフや一般事務職などが該当することが多いです。
※州ごとにFLSAよりも厳格な独自のルールを設定している場合があります (例:最低賃金など)。必ず店舗、オフィス等が設置されている州法にも留意しましょう。
2. Exempt / Nonexemptの判定基準
役職名や職務記述書だけでなく、実際の職務内容と給与水準によって判定されます。
主な要件
給与水準
- ほとんどのExempt Employeeは週給$684以上である必要があります (例外あり)。
給与形態
- 基本的にはサラリー制 (固定給) で支払われることが必要です。
職務内容
- 以下のいずれかの「White Collar Exemption (ホワイトカラー・エグゼンプション) 」職種であること。
3. 主なExempt職種の分類と要件
①管理職 (Executive) (29 C.F.R. §541.100-106)
- 主な業務:企業または部門の「管理」が中心
- マネジメント:2名以上のフルタイム従業員を恒常的に指揮監督
- 人事権限:採用・解雇・昇進等に対して実質的な決定権または推薦権を持つ
- 給与:週給$684以上 (20%以上の持株者は給与要件なし)
②管理部門職 (Administrative) (29 C.F.R. §541.200-204)
- 主な業務:経営または事業運営全般に直接かかわる、非マニュアルなオフィス業務
- 判断力:重要事項について自ら判断・裁量を持ってい意思決定を行う
- 給与:週給$684以上
③専門職 (Professional) (29 C.F.R. §541.300-304)
- 主な業務:高度な専門知識や学術的バックグラウンド (例:弁護士、医師、大学教員、会計士など)が必要
- 創造的職務:芸術やクリエイティブ分野で独自性や創造性が求められる場合も含む
- 給与:週給$684以上 (ただし、教員、弁護士、医師は例外)
④コンピューター関連専門職 (Computer Professional) (29 C.F.R. §541.400-402)
- 主な業務:システム分析、プログラム開発、システム設計・テスト・改修など
- 給与:時給$27.63以上、または週給$684以上
⑤外勤営業職 (Outside Sales) (29 C.F.R. §541.500-504)
- 主な業務:商品・サービスの販売、契約受注など
- 勤務地:雇用主の事業所以外で定期的に業務を行う必要あり
- 給与要件:特に定めなし
⑥高所得従業員 (Heigel Compensated Employee) (29 C.F.R. §541.601)
HCE制度の意義
高額報酬を得ている従業員については、FLSA上の労働保護の必要性が相対的に低いとされるため、詳細な職務分析を省略できる仕組みで、企業にとっては、高所得者層の判定実務負担を軽減できる
ただし、報酬については、年換算ベースで確認するため、中途入社や退職者の場合は注意が必要です。
HCEの要件
- 年収基準:年間総報酬が$107,432以上 (給与、ボーナス、インセンティブ報酬等を含む総額)
- 週給基準:最低でも週給$684以上が固定給で支払われていること
- 職務要件:少なくとも1つ以上、Exempt職務に関連する業務 (上記①~⑤) に従事していること
チェックリスト
チェック項目 | 判定 | Exempt/Nonexemptの分類 |
固定給 (月給または週給) で支払っている | Yes | Exempt Employeeの可能性あり |
週給が$684以上である | Yes | Exempt Employeeの可能性あり |
管理職として、部下2名以上を監督している | Yes | Executiveに該当 |
経営に関わる判断を日常的に行っている/意思決定をする権限を持っている | Yes | Administrativeに該当 |
学歴や専門知識を基に知的業務を行っている | Yes | Professionalに該当 |
システム開発や技術業務を担当している | Yes | Computer Professionalに該当 |
種業務は外勤の訪問型営業である | Yes | Outside Salesに該当 |
※2024年4月に米国労働省は、Exempt Employeeの給与基準等を引き上げる最終規則を発表しましたが、同年11月にテキサス州東部地区連邦地方裁判所がこれを無効と判断しました。そのため、現在は2019年の基準 (週給$684・高所得従業員 (HCE)は年収$107,432) が引き続き適用されています。2024年規則に関する訴訟は他の連邦裁判所でも係争中で、政府は控訴しています。今後の動向に注意が必要です。2
4. Nonexempt Employeeの扱い
最適賃金 (Minimum Wage) と時間外割増賃金 (Overtime Premium:週40時間超は通常賃金の1.5倍以上)を必ず支給しなければなりません。
労働時間・給与記録の正確な管理義務があります。
5. 判定のポイントと注意点
職務名や肩書ではなく、実際の職務内容で判定されます。
また、給与水準を満たしていても、職務内容が要件を満たさない場合は、Nonexemptとなるため、誤った分類は未払い賃金等のリスクを伴います。
さらに、各州ごとに独自基準が設けられている場合があるため、手法の確認も必須です。
企業がExemptと誤分類した場合のリスク
未払い残業代の支払い義務
対象従業員の過去最大2年 (悪意ある違反は3年) 分の残業代を遡って支払う
追加の罰金・利息
FLSA違反により、同額の損害賠償金 (liquidated damages) が課される場合があります。
また、州法でも独自の罰金が科される場合があります。
クラスアクション (集団訴訟)
1人の誤分類が会社全体の訴訟に拡大する可能性があります。
U.S. DOL (Department of Labor | 米国労働省) または州労働省の監査
誤分類が発生すると、労働当局から監査が入る可能性があります。
企業の対応策
- 職務再評価 (Job analysis) の定期実施 (1年に1回など)
- FLSA判定基準に即したポジションごとのチェックリスト運用
- HR/Payroll部門の法令順守教育 (特に、Manager+以上)
- 必要に応じて、労働弁護士やHR専門家への相談
まとめ
アメリカの労働法 (FLSA) では、従業員の分類によって、大きく待遇が変わります。
正確な分類・管理は、企業にとって法的リスク回避だけでなく、従業員のエンゲージメント向上にも不可欠です。
実際の運用にあたっては、U.S. DOLや隔週の労働当局の公式ガイドライン等を参照してください。
出典・参考文献一覧
- eCFR :: 29 CFR Part 541 — Defining and Delimiting the Exemptions for Executive, Administrative, Professional, Computer and Outside Sales Employees
- Earnings thresholds for the Executive, Administrative, and Professional exemption from minimum wage and overtime protections under the FLSA | U.S. Department of Labor
- Handy Reference Guide to the Fair Labor Standards Act | U.S. Department of Labor
免責事項 (Disclaimer)
本記事は、Cornerstone Strategy LLCが米国の人事・労務・税務実務における一般的な情報や、主要な公式ガイドライン・判例等をもとに、人事コンサルタントの立場から整理・解説したものです。
弊社は、弁護士法人、会計士法人、税理士法人等の法的・税務の専門資格団体ではありません。
記事の内容は法的、会計・税務的助言を構成するものではなく、特定の事案に関して法的効力や適用性を保証するものではありません。
契約書の作成や労務・税務関連の各種Form (書式) の提出、重大な人事判断を行う際は、必ず連邦法や遵守すべき州の法律の弁護士、会計士、税理士等の公的資格を持つ専門家にご相談ください。
本記事の利用により生じたいかなる損害等についても、弊社は一切の責任を負いかねますのでご了承ください。