公開日:2025年4月24日
最終更新日:2025年4月24日
アメリカ合衆国においてビジネスを行う企業が避けて通れない「Worker Classification (労働者の区分)」について、包括的かつ実務的に解説します。Worker Classificationとは、労働者を「従業員 (Employee) 」として扱うべきか、「独立請負人 (Independent Contractor) 」として扱うべきかを判断するプロセスであり、税務、人事、労務、法務のすべてに関連する根幹事項です。
※現代風の呼び名で言うと、「個人事業主」、「フリーランス」、「ノマドワーカー」だと思いますが、このページでは「独立請負人」と訳します。
日本から米国に進出する企業、米国現地法人を設立したばかりの企業、あるいは人事・労務担当者として着任したばかりの方にとって、非常に重要かつ混乱しやすい領域ですが、読者が本記事を読み終わった後には、Worker Classificationの実務において判断・記録・説明・対処ができるようになることを目的とします。
- 初学者にもわかりやすく、用語や制度の背景から丁寧に説明
- 実務で必要な判断基準や手続き、書類の作成方法を明記
- 誤分類が与える影響を具体的に提示
- 連邦法および主要州 (ニューヨーク州・ニュージャージー州・テキサス州) の違いを整理
- 手続き・文書管理・社内体制構築までをカバー
1. 労働者区分の重要性と分類の概要
1-1. 労働者区分がなぜ重要なのか?
労働者の分類は単なる形式的な手続きではなく、企業のコンプライアンス体制、財務負担、従業員の保護、さらには企業文化の形成にまで影響する極めて重要な判断です。誤った分類をした場合には、多額の追徴課税、罰金、利息が発生し、最悪の場合には訴訟や企業の評判失墜につながる可能性があります。
実務における主な影響:
- 税務処理の違い:源泉徴収義務の有無、W-2と1099-NECの発行義務
- 社会保険費用の負担:FICA税 (Federal Insurance Contribution Act | 社会保障・医療保障税) の雇用主負担の有無
- 失業保険・労災保険の対象かどうか
- 連邦・州労働法の適用有無 (例:最低賃金、残業、差別防止、休暇など)
1-2. なぜ企業は独立請負人として扱いたがるのか?
企業側にとって、独立請負人として扱うメリットは大きいです。代表的なものには以下があります。
- 雇用関連税金や保険の負担が不要になる
- 労働時間や残業などの管理義務が軽減される
- 契約ベースで柔軟な業務委託が可能
- 業績連動型や短期プロジェクトに最適
しかしながら、このようなコスト削減や柔軟性の追求が労働者の不適切な分類 (誤分類) を生む温床にもなっています。これを問題視したIRS (Internal Revenue Service | 内国歳入庁) やDOL(Department of Labor | 労働省) は、近年この分野の監査を強化しており、特にテクノロジー企業、配車サービス、建設業、飲食業界などで摘発が相次いでいます。
1-3. 労働者の分類が明確でないケースが多い
近年のビジネス形態の多様化に伴い、境界が曖昧な働き方が増えています。
例として
- リモートワーカー (勤務実態が不透明)
- 週数回のみの契約業務
- プロジェクトベースで関与する技術者やコンサルタント
これらのケースでは、「名目上の契約」や「肩書き」だけでは分類できません。実際の業務内容・実態に基づいて判断する必要があるため、本章では判断基準を詳細に解説していきます。
2. 従業員 vs 独立請負人 ― 税務・社会保険・法務の違い
Worker Classification が重要な理由のひとつは、労働者の取り扱いによって企業に課される義務が大きく異なるという点です。ここでは、米国の労働法および税法に基づき、従業員 (Employee) と独立請負人 (Independent Contractor) との具体的な違いを、各領域別に体系的に整理します。
2-1. 税務上の違い
従業員の場合:
- 所得税、社会保障税 (Social Security Tax) 、医療保険税 (Medicare Tax) を雇用主が源泉徴収1, 2
- FICA税を雇用主と従業員の双方が負担1, 2
- 翌年1月末までにForm W-2 (“Wage and Tax Statement”)を発行3, 6
独立請負人の場合:
- 源泉徴収不要4
- SECA税 (Self-Employment Tax) を独立請負人本人が全額自己申告で納付5
- 年間$600超を超えた場合、企業が独立請負人に対してForm 1099-NEC (“Nonemployee Compensation”) を発行1, 5
2-2. 税・社会保障・保険制度等への影響
保険制度 | 雇用主 | 従業員 | 独立請負人 | 補足 |
---|---|---|---|---|
連邦所得税 (FIT) | 源泉徴収義務 あり | 実質的負担者 | 自分で支払う (確定申告) | FITはW-2源泉徴収または自己申告 |
州所得税 (SIT) | 州によって 源泉徴収義務 あり | 実質的負担者 | 自分で支払う (確定申告) | 州により課税有無・税率が異なる |
社会保障・医療保険 (FICA) | 雇用主分負担 | 従業員負担分を 給与天引き | 支払義務なし | 雇用主従業員共に 社会保障:6.20% 医療保険:1.45% |
個人事業主税 (SECA) | ― | ― | 全額自己負担 | 独立請負人がFICA相当 (15.30%)を自己負担 |
連邦失業保険 (FUTA) | 全額負担 | 負担なし | 支払義務なし | 従業員の失業保険原資。独立請負人は対象外 |
州失業保険 (SUTA) | 雇用主負担あり | 原則負担なし | 支払義務なし | 州失業保険制度への拠出 |
州障害保険 (SDI) | 州により 拠出義務あり | 州により 給与天引き | 原則なし (任意加入) | カリフォルニア州などで導入済 |
有償家族手当(PFL) | 州により 拠出義務あり | 州により 給与天引き | 原則なし | カリフォルニア州、ニューヨーク州、ニュージャージー州などで制度あり |
労災保険 (WC) | 原則雇用主が 加入義務 | 補償対象 | 原則対象外 | 独立請負人は保険対象外。希望により任意加入も可能 (州による) |
2-3. 法的義務と労働法の適用
従業員:
- FLSA (Fair Labor Standards Act | 公正労働基準法) 適用あり7
- 最低賃金・残業・育児休暇・差別禁止法など多数適用
- 福利厚生制度に加入資格あり (401(k)、医療保険など)
独立請負人:
- 原則FLSA適用外
- 差別防止、最低賃金なども対象外 (ただし一部例外あり)
- 福利厚生なし
2-4. 契約・支払い・実務対応の違い(まとめ)
項目 | 従業員 | 独立請負人 |
---|---|---|
契約形式 | 雇用契約 | 業務委託契約 |
報酬方式 | 時給・月給・年俸など | 出来高制・プロジェクト単位 |
支払方法 | 定期的 | 請求書ベース |
税務処理 | 源泉徴収 | 自己申告(SECA) |
年末処理 | W-2発行 | 1099-NEC発行 |
労働時間管理 | 必須 | 原則自由 |
勤務地・設備機器等 | 指定・会社提供 | 自由・自己負担 |
3. 分類判断の基準 ― IRSによるCommon Law Test
3-1. Common Law Testとは
IRSは、名目ではなく「実態」に基づいて労働者を分類するため、Common Law Testを用いています8。これは3つの評価カテゴリと20の補助要素で構成されます。
- 行動のコントロール(Behavioral Control)
- 財務的コントロール(Financial Control)
- 契約関係の性質(Type of Relationship)
3-2. 各カテゴリの評価内容
A. 行動の管理
- 業務の手順、手段、時間、場所の指示があるか
- トレーニングやマニュアルがあるか → あれば被用者性が強い
B. 財務的コントロール
- 機材・道具が本人所有か
- 費用自己負担か
- 利益・損失の可能性あり → あれば独立性が高い
C. 関係の性質
- 契約書の表現
- 福利厚生の有無
- 継続性や専属性の有無
3-3. IRSの雇用に関する20の判定要素 (IRS Rev. Rul. 87-41)
No. | 判定要素 | 内容説明 |
---|---|---|
1 | 指示 (Instructions) | いつ・どこで・どのように仕事をするか、会社が指示しているか。 |
2 | トレーニング (Training) | 会社が業務遂行に関してトレーニングを提供しているか。 |
3 | 業務の統合 (Integration) | 業務が会社の主要事業とどれだけ密接に関連しているか。 |
4 | 個人による遂行 (Services Rendered Personally) | 労働者が自分で業務を行う義務があるか (代理人の使用不可)。 |
5 | 補助者の管理 (Hiring, Supervising, and Paying Assistants) | 会社が補助者を雇用・管理しているか。 |
6 | 継続的関係 (Continuing Relationship) | 会社との関係が継続的か断続的か。 |
7 | 時間の設定 (Set Hours of Work) | 労働時間を会社が決定しているか。 |
8 | フルタイム勤務 (Full Time Required) | 労働者がフルタイムで拘束されているか。 |
9 | 勤務場所 (Work Performed on Employer’s Premises) | 会社の施設で作業を行う必要があるか。 |
10 | 業務の順序 (Order or Sequence Test) | 会社が作業の順序や手順を指定しているか。 |
11 | 報告義務 (Oral or Written Reports) | 会社に定期的な口頭・文書による報告義務があるか。 |
12 | 支払方法 (Payment by Hour, Week, or Month) | 時間・週・月単位で支払われているか(給与に近いか)。 |
13 | 経費精算 (Payment of Business and/or Traveling Expenses) | 会社が業務や出張に関する費用を負担しているか。 |
14 | 設備機器と材料 (Furnishing Tools and Materials) | 作業に必要な設備機器や材料を会社が提供しているか。 |
15 | 投資 (Significant Investment) | 労働者が設備・道具などに大きな投資をしているか。 |
16 | 利益と損失 (Realization of Profit or Loss) | 労働者が損益のリスクを負っているか。 |
17 | 複数社での業務 (Working for More Than One Firm at a Time) | 他の会社でも同様のサービスを提供しているか。 |
18 | 公開サービス (Making Service Available to the General Public) | 一般向けにビジネスとしてサービスを提供しているか。 |
19 | 解雇の権利 (Right to Discharge) | 会社が一方的に契約を終了させる権利を持っているか。 |
20 | 契約終了の自由 (Right to Terminate) | 労働者が自由に契約を解除できるか。 |
留意点
- 現在は、先に述べた「行動のコントロール」、「財務的コントロール」、「契約関係の性質」が一般的に利用されており、上記の20要素は補助的な位置付けとして利用されていますが、より細かいチェック項目として今もなお利用可能なため、掲載しています。
- 20要素はすべてを満たす必要はなく、総合的に判断されます。
- 名目(契約書上の記載) よりも実態が優先されます。
- 州や法律によっては、別の判定基準 (Economic Reality Test (経済的実態テスト)、ABCテスト(例:ニュージャージー州等)など) を採用していることがありますが、概ね判定するカテゴリーは共通しています。
4. Safe Harbor (§530)と過去の慣行に基づく分類の保護
4-1. Safe Harbor制度とは?
IRSによる監査時に、分類誤りがあった場合でも「過去に合理的根拠があった (Reasonable Basis) 」と認められれば、追徴課税を免除する制度が §530 のSafe Harbor条項です9。
4-2. 適用条件 (3つすべてを満たす必要あり)
- 合理的根拠がある (判例がある、連邦・州政府などの通達に従っている、弁護士・税理士の助言を受けている等)
- 過去から現在まで一貫した分類 (同じ業務で同じ分類)
- 税務処理の一貫性 (独立請負人にはForm 1099-NECを発行し、従業員にはForm W-2を発行しているなど)
4-3. 実務でのポイント
- 契約書の有無やその内容、税務書類 (1099-NECやW-2など) の提出、業務記録などの「合理的根拠」の文書保存が重要
- 監査時にSafe Harborを主張すると、立証責任はIRS側にある
4-4. 適用例と注意点
- Safe Harborは「分類が正しいと認められた」わけではない
- 将来の分類についての正当化には使えない
- 同一分類を継続することが前提となる
5. Form SS-8とForm 8919 ― 公式判断の取得と労働者側の申告手段
5-1. Form SS-8:IRSへの公式判定請求
Form SS-8 (“Determination of Worker Status for Purposes of Federal Employment Taxes and Income Tax Withholding”) は、企業または労働者が、自身の分類についてIRSから公式な判断を得たいときに提出する書式10, 11です。
提出者
- 雇用主 (企業)
- 労働者 (現職者・元労働者を問わず)
主な内容
- Common Law Testに基づく詳細な質問群(約50問)
- 業務の遂行方法、指揮命令系統、設備・道具の所有、利益・損失のリスク、契約内容など
処理
- 最低でも6ヶ月の審査期間を要する
- IRSの判断は「行政的な助言」であり拘束力はないが、監査時の重要な参考情報として機能する
注意点
- IRSによる書類の審査・処理中は、原則として労働者を「従業員」として暫定処理するのが推奨される
5-2. Form 8919:労働者側による従業員主張と納税[^5]
Form 8919 (“Uncollected Social Security and Medicare Tax on Wages”)は、独立請負人として報酬を受け取ったが、実質的には従業員であると考える労働者が、自己申告でFICA税の一部 (従業員負担分) の納付を行うためのフォーム12です。
適用ケース
- 雇用主が分類を誤っていると感じているが、直接の是正がなされない場合
- Form SS-8の提出と併用されるケースもある
納税の扱い
- 労働者がW-2ではなく1099-NECを受け取った際に、Form 8919でFICA税 (従業員分) だけを申告
- 雇用主分のFICAは納付不要 (企業が追って支払う可能性あり)
影響
- IRSによる企業への調査が誘発される可能性がある
- 記載内容に基づいて、分類の見直しや是正が行われることもある
6. 州ごとのWorker Classification基準の違い ― NY・NJ・TX・CA
Worker Classificationの判断基準は、連邦法 (IRSやFLSA) に加えて、州ごとにも異なる制度が存在します。ここでは、日系企業の進出が多いニューヨーク州、ニュージャージー州、テキサス州、カリフォルニア州の比較を行います。
6-1. ニューヨーク州 (New York)
- 所管機関:NYSDOL (New York State Department of Labor | ニューヨーク州労働省)
- 基本的にはCommon Law Testに類似する基準を採用13
- 建設業では「Construction Industry Fair Play Act」により、労働者は企業の指揮命令系統支配下にない、従事する業務以外にもビジネスを行っているなどが認められない限り、原則従業員と推定14
6-2. ニュージャージー州 (New Jersey)
ABCテストの要件:
以下のすべての要件を満たさなければ、労働者は独立請負人とは分類されない。
A. 雇用主の支配・指揮を受けていないこと
B. 業務が企業の通常業務 (≒コア業務) とは別であること
C. 労働者が独立事業体であること
Uber Technologies社は、同社の約30万人にも及ぶドライバーを不適切に「独立請負人」として分類し、失業保険や傷害保険、家族休暇保険などの重要なセーフティーネット給付を受ける権利を奪っていたとして、過去の未払い金拠出として7,800万ドル (約111億円)と2,200万ドル (約31億円) の罰金・利息の支払いを命じられ、総額1億ドル (約142億円) を支払いました。17, 18
6-3. テキサス州 (Texas)
- 所管機関:TWC (Texas Workforce Commission | テキサス労働委員会)
- テキサス州は雇用の判定を「サービス内容」、「賃金」、「指揮命令」の3つの要素で判定している (Texas Unemployment Compensation Act Section 201.401)
- これらの3要素を具体的にチェックするために、IRSの20-Factor Test (3-3参照)を参考情報として利用19
- 配車アプリやフリーランスなどのギグワーカーに対応する「Marketplace Contractor」を別途州法で定義 (40 T.A.C. §815.134(b))20
6-4. カリフォルニア州 (California)
- 所管機関:DIR (California Department of Industrial Relations) など
- 業種を問わず「ABCテスト」を原則採用 (要件は他州と同様)21
- 適用除外業種も明示的にリスト化23
- 弁護士、医師、建築請負業等の一部例外はBorello Test (コモンローの総合判断) を適用
- 違反の場合は、罰則、ペナルティ、クラスアクション訴訟リスクが極めて高い
6-4. 州別比較表
州 | 採用基準 | 特徴 |
---|---|---|
ニューヨーク (NY) | Common Law + 建設業特例 | ・建設労働者は原則従業員と推定 |
ニュージャージー (NJ) | ABCテスト (厳格) | ・請負人認定のハードルが高い |
テキサス (TX) | 20-Factor + Marketplace | ・柔軟性あり ・企業寄りの州 |
カリフォルニア (CA) | ABCテスト (AB5) | ・原則全業種 (例外業種あり) ・ペナルティが重い |
7. 契約書における実務対応 ― 誤分類を防ぐ文言と構成の工夫
Worker Classification のリスクを軽減するうえで、業務委託契約書 (Service Agreement) や雇用契約書 (Employment Agreement) は極めて重要です。ただし、「契約書に“Independent Contractor”と記載しているから大丈夫」という考えは危険です。IRSやDOL (州のDOLや関連当局含む)は契約文言ではなく、実態によって判断するため、契約内容は補助的な証拠にすぎません。
しかし、契約書が適切に整備されていれば、分類の合理性を支える補強材料となります。
7-1. 契約書に盛り込むべき主な条項
条項名 | 説明 | 文言例(抜粋) |
---|---|---|
独立性の明記 | 雇用関係でないことを明文化 | “This agreement shall not create an employer-employee relationship…” |
業務内容の明確化 | 成果物や対象業務を明示 | “Contractor shall perform the following services…” |
勤務場所・時間の裁量 | 労働者の自由裁量とする | “Contractor shall determine the time, place, and manner…” |
報酬方式 | 出来高またはプロジェクトベース | “Contractor shall be paid $X per deliverable…” |
費用負担の明記 | 経費・道具・交通費などを労働者負担とする | “Contractor is solely responsible for all expenses…” |
再委託の許可 | 自由な再委託が可能な条項 | “Contractor may employ assistants or subcontractors…” |
契約期間の限定 | プロジェクト単位が望ましい | “This agreement shall terminate upon delivery of…” |
※実際に契約書を作成する際は、当該発注業務や労務に精通する社内外の弁護士に契約書作成または契約書レビューをお願いしてください。
7-2. チェックリスト:分類維持の観点
- 勤務時間や場所の強制がないか
- 業務マニュアルの遵守を義務付けていないか
- 固定給ではなく、出来高制となっているか
- 従業員と同等の福利厚生を提供していないか
- 企業ロゴの入った名刺やメールアドレスを付与していないか
7-3. よくあるミス例とリスク
ミス | リスク |
---|---|
「契約社員 (Contract Employee) 」という表現 | 雇用関係の示唆になり得る |
月額固定支払い | 従業員性の高い給与と解釈されやすい |
フルタイム勤務義務 | 労働時間管理を示唆し、従業員と判断される可能性 |
8. 誤分類が発覚した場合の対応フローと是正手順
万一、「本来従業員であるべき人を独立請負人として扱っていた」と発覚した場合、企業は税務的・法務的な対応が求められます。
8-1. 発覚経路
- IRS監査 (源泉徴収・FICA未納など)
- DOL調査 (最低賃金・残業代など)
- 州の失業保険・労災監査
- 労働者による申告 (Form 8919など)
- 集団訴訟 (クラスアクション)
8-2. 初動対応のステップ
- 契約書・勤怠・報酬・指示記録などの事実保全
- Common Law TestやABCテストによる再評価
- 専門家 (労務弁護士・税理士)への即時相談
- 是正と修正申告の準備 (W-2再発行、Form 941修正など)
8-3. VCSPの活用
VCSP (Voluntary Classification Settlement Program) 24を活用すれば、従業員としての再分類と同時に、過去のFICA税の一部免除を受けられる可能性があります。
要件(抜粋):
- 現在監査中でないこと
- 今後すべてW-2で処理すること
- 一部FICA (過去1年の10%) を納付すること
8-4. 再発防止策
項目 | 内容 |
---|---|
社内分類基準の整備 | IRS/州の判断基準をまとめた社内文書を用意 |
契約雛形の標準化 | 法務・人事連携で定期的にレビュー |
研修の実施 | 管理職・人事・経理向けに実務研修 |
定期モニタリング | 半期~年次の契約実態レビュー |
9. 総合チェックリストと社内体制整備モデルプラン
9-1. 総合チェックリスト
分類判断
- IRSのCommon Law Testを確認したか
- 州独自のテスト (ABCテスト等) を調査したか
- 一貫性ある分類ができているか
契約と税務
- 契約書に独立性・成果主義が明記されているか
- W-9 (“Request for Taxpayer Identification Number and Certification”) / W-4 (“Employee’s Withholding Certificate”)を取得済か
- 1099-NEC/W-2を正しく発行しているか
運用と監査対策
- 日常の勤務・管理の記録を保存しているか
- 過去分類の根拠をファイル保存しているか
- Form SS-8/8919提出の可能性ある労働者を把握しているか
9-2. 社内体制モデル
ステップ | 内容 |
---|---|
ステップ1 | 分類ガイドラインを社内規程化 (Common Law + 州基準) |
ステップ2 | 業務委託・雇用契約書のテンプレート整備 |
ステップ3 | 年1回以上の研修開催 (Manager +向け) |
ステップ4 | 契約実態の年次レビューとリスク評価 |
ステップ5 | 是正マニュアル・監査対応フローの整備 |
出典・参考文献一覧
- Publication 15 (2025), (Circular E), Employer’s Tax Guide | Internal Revenue Service
- Topic no. 751, Social Security and Medicare withholding rates | Internal Revenue Service
- Topic no. 752, Filing Forms W-2 and W-3 | Internal Revenue Service
- Independent contractor (self-employed) or employee? | Internal Revenue Service
- Publication 334 (2024), Tax Guide for Small Business | Internal Revenue Service
- General Instructions for Forms W-2 and W-3 (2025) | Internal Revenue Service
- Fact Sheet 13: Employment Relationship Under the Fair Labor Standards Act (FLSA) | U.S. Department of Labor
- Topic no. 762, Independent contractor vs. employee | Internal Revenue Service
- Worker reclassification – Section 530 relief | Internal Revenue Service
- About Form SS-8, Determination of Worker Status for Purposes of Federal Employment Taxes and Income Tax Withholding | Internal Revenue Service
- Completing Form SS-8 | Internal Revenue Service
- About Form 8919, Uncollected Social Security and Medicare Tax on Wages | Internal Revenue Service
- Independent Contractors | Department of Labor
- Construction Industry Fair Play Act | Department of Labor
- My Work Rights | Independent Contractors and Misclassification
- Independent Compensation Law | New Jersey Department of Labor
- Department of Labor and Workforce Development | Uber Pays $100M in Driver Misclassification Case with NJ Department of Labor and Workforce Development and Attorney General’s Office
- mizuhobank.co.jp/market/historical/backnumber_a/data/quote_20220913.txt
- Classifying Employees & Independent Contractors – Texas Workforce Commission
- TAC – Rules & Meetings
- Independent contractors | State of California Department of Industrial Relations
- Dynamex Operations West, Inc. v. Superior Court of Los Angeles County :: 2018 :: Supreme Court of California Decisions :: California Case Law :: California Law :: U.S. Law :: Justia
- California Labor Code § 2750.3 (2019) :: 2019 California Code :: U.S. Codes and Statutes :: U.S. Law :: Justia
- Voluntary Classification Settlement Program | Internal Revenue Service
略語集
- FIT (Federal Income Tax | 連邦所得税)
- SIT (State Income Tax | 州所得税)
- FICA Tax (Federal Insurance Contribution Act | 社会保障税と医療保険税の総称)
- SECA Tax (Self-Employment Contribution Act | 個人事業主税)
- FUTA Tax (Federal Unemployment Tax Act | 連邦失業保険税)
- SUTA Tax (State Unemployment Tax Act | 州失業保険税)
- PFL (Paid Family Leave | 有償家族休暇)
- WC (Workers’ Comp | 労働保険)
- IRS (Internal Revenue Service | 内国歳入庁)
- DOL (Department of Labor | 労働省)
- FLSA (Fair Labor Standards Act | 公正労働基準法)
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