Tag: CornerstoneStrategy
-
テクノロジーツールとの付き合い方
はじめに AIやRPAなどをはじめとするテクノロジーの進化は私たちの生活や仕事を大きく変えました。特に、生成AIによるアイデア出し、文字起こし、要約などのツールは、業務効率化にとても役立っています。私も毎日のようにChat GPTを使用しています。 コーチングセッションや会議を録音しておけば、自分でメモを取る必要がなくなり、発言や議論に集中できるだけでなく、セッションや会議が終わった瞬間に、誰が何を発言していたのか、決定事項は何か、ToDoが何で、残論点が何なのかすべて把握できます。効率性という観点では、明らかにメリットです。しかし、その一方で、「効率」を追い求めるあまり、私たち自身の思考力や表現力が低下してしまうのではないかという危惧も感じます。この記事では、特に議事録の作成をテーマに、自分自身の経験をもとにテクノロジーとの向き合い方を考えてみたいと思います。 テクノロジーツールの恩恵 – 効率化と集中力の向上 私はこれまでずっとコンサルティング業界に身を置いてきました。現在は大きなコンサルティングファームに属していないため、最近の新卒1年目コンサルの主な作業が何かを把握できていないですが、私が新卒で入社して最初に行う主な作業のひとつは「議事録作成」でした。 SIプロジェクトでも業務系のプロジェクトでも、プロジェクトの内容を問わず、1年目の作業は、会議日程の調整、議事録作成、会議資料の部分的な作成・修正、簡単なデータ分析がほとんどです。 なかでも、議事録作成は会議終了後24時間以内、プロジェクトによっては遅くとも3営業日以内にクライアントに提出する必要があり、業務知識はもちろんのこと、ビジネスのいろはすらわかっていない状態で、時間内に議事録を書き上げる作業はとても大変でした。大人数かつ2時間などの長時間の会議の議事録だと、1日中議事録を書いていたこともあります(当時の上司には申し訳ないですが、、、)。 会議中にもちろんメモを取るわけですが、最初は何が重要な発言で、何が論点と関係のない発言なのか識別することもできないため、全員が発した言葉を可能な限り拾って文字起こしをしていました。そして、会議終了後にはすぐさま上司を捕まえて、決定事項とToDoの確認を行っていました。 そして、決定事項とToDoの確認が取れたら、その決定事項とToDoの合意形成に至った背景や理由を文字起こししたメモから見つけて箇条書きで整理するとともに、それが誰の発言によるものであったかも付す。 初版を作成して、上司からレビューを受け、指摘を反映させるのですが、上司の指摘も非常に細かい。文章の主語、目的語、述語の明確化、「てにをは(助詞)」、議事録内で同義語として使用される文言の統一、接続詞の使い分けによる論理的な表現など、社会人になって日本語の難しさを痛感していました。 官公庁のプロジェクトにアサインされるととてもユニークで、同じ表現でも動詞として使われるときと、名詞として使われるときとで、送り仮名が変わることもしばしば (例:「取り決める(動詞)」、「取決め (名詞)」など))。さすがに細か過ぎると思っていましたが、文化庁の書類で「公用文における漢字使用等について」という文書があり、公共サービスプロジェクトでは当たり前のように遵守していました。 1日または数日間にわたって、上司とのこうした細かなやり取りを数回行った結果、無事にクライアントに議事録が提出されます。 このやり取りを毎日繰り返していると、誰が何を気にしているのか、どんな発言が予想されるのか、議論の着地点をどこに持っていこうとしているのか推測できるようになってきます。 その結果、会議後24時間で提出していた議事録も、20時間、15時間、当日中、そして最後は数時間以内にといった形で、知識・スキルの上達とともに効率化が図られます。 今となっては、Chat GPTに「添付した録音データを文字起こしして」、「決定事項とToDoを箇条書きで整理して」などのように指示をすれば数分以内に完成してしまうので、当時の私の作業は何だったのか・・・?と疑問に思うほどのスピードと精度ですが、あの期間があったからこそ、表現力や思考力が向上したと思っているので、無駄どころか上司には申し訳ないですが、私にとっては必要な時間であったと思います。 テクノロジーに頼るリスク – 思考力と表現力の低下 ビジネスに限らない話ですが、時間は有限です。テクノロジーの利活用によって効率化されるならば、自分の時間を他の作業に充てることができるようになるため、基本的に利用しない理由はないと思います。 他方で、議事録や調査・データ分析などの作業をツールに任せきりにすることで、私たち自身の「考える力」が低下してしまうリスクもあるのではないでしょうか。例えば、先に挙げた例で言えば、大人数での会議や複雑な議題において、話の流れを自分で整理しながらメモを取る作業は、物事を俯瞰する力や要点を抽出する力を養う絶好のトレーニング機会でもあります。 また、自分自身で議事録をまとめる過程では、情報をどのように伝えるべきか、どの言葉を選ぶべきかを考えることで、文章力や表現力も磨かれます。これらの力は一朝一夕で身につくものではなく、日々の実践の中で少しずつ鍛えられていくものです。 非効率の中にある学びの価値 効率的な手段がある中で、あえて「非効率」な作業を選ぶのは一見矛盾しているように思えるかもしれません。しかし、私はこの「非効率」の中にこそ、自己研鑽の価値があると考えています。 量をこなしていないやつには質を語る権利はない – サッカー元日本代表 本田圭佑選手 – これは量を積み重ねることで質的な変化が起こる意味の「量質転化の法則」とも言います。 例えば、会議中にメモを取り、自分なりに議事録をまとめるプロセスを繰り返すことで、次第に情報を整理するスピードが速くなり、要点を見抜く力も向上します。こうしたスキルは、ツールを使った効率化の先にも活かされる「基礎力」として非常に重要です。 まずは自分でやる、その後に頼る 私は、テクノロジーツールとの付き合い方について、「まずは自分でやる」というステップを大切にしたいと考えています。自分で考え、まとめる力をある程度身につけた上で、ツールを活用すれば、その効果をより高めることができるでしょう。 仮にChat GPTに質問や作業を投げるとしても、まったく考えずに丸投げするのではなく、仮説をChat GPTにぶつけてみたり、どういう答えが返ってくるか想像しながらプロンプトを書くことで、テクノロジーの活用力も向上すると思っています。 テクノロジーはあくまで私たち人間を支援するツールであり、思考そのものを代替するものではありません。タイパ・コスパが叫ばれる時代ですが、自分自身の力を失わずに、便利なツールを賢く活用することが、これからの時代を生き抜く上で重要なポイントだと思います。
-
「適材適所」と「適所適材」の違いと課題
ジョブ型社会の中での課題 「ジョブ型雇用」という言葉が日本でも注目される中、様々な制度設計などにおいて、仕事に軸を置くべきか、人に軸を置くべきかの議論がますます重要になっています。従来の日本企業では「適材適所」という考え方が主流でしたが、ジョブ型の導入が進むにつれて、「適所適材」という新しい視点が必要とされています。 この議論を考えるうえで、海外駐在員や海外社費留学といったグローバル人材育成の事例は、適材適所と適所適材の課題を理解する良い例となります。 「適材適所」とは何か 「適材適所」とは、一人ひとりの能力や適性に応じた役割や仕事を割り当てることを意味します。この考え方は、年功序列型や終身雇用といった従来の日本企業文化の中で発展してきました。個々の強みを生かしながら、長期的な視点で人材を育成する仕組みと親和性が高いのが特徴です。 メリット: しかし、課題もあります。例えば、個人の適性を見誤ったり、長期的視点が優先されすぎて短期的な成果が軽視されるリスクが挙げられます。 「適所適材」とは何か 一方、「適所適材」は、まず仕事の内容や目的を明確にし、その要件を満たす適切な人材を配置する考え方です。ジョブ型雇用の広がりとともに、このアプローチは大企業を中心に採用されつつあります。職務記述書(ジョブディスクリプション)の作成や職務評価がその具体例と言えます。 メリット: しかし、この方法にも課題があります。短期的な成果を重視するあまり、柔軟性や長期的な人材育成が軽視される可能性があります。また、求める人材要件が厳格すぎる場合、適切な人材を見つけること自体が難しくなることもあります。 グローバル人材育成における「適材」と「適所」 適材適所の課題:帰国後のポストの準備不足多くの企業では、海外駐在や海外留学を経た社員が帰国した後に、その経験を生かせるポストを用意できていないケースがあります。例えば、グローバルな視点や語学力を磨いてきた社員に対し、従来の業務や国内中心のポジションしか提示できない場合、社員は自らの成長が阻まれたと感じてしまいます。結果として、一定期間を経て退職してしまうケースが少なくありません。 この問題は、「適材適所」の視点から見ると、社員の能力や適性を正しく評価し、適切なポストを用意できていないことを意味します。企業が帰国後のキャリアプランを事前に提示せずに海外派遣を行うことが、こうしたミスマッチを生む要因の一つです。 適所適材の課題:必要な経験や能力の定義不足一方で、「適所適材」の視点では、派遣前にポストの要件を明確にし、それに見合った経験やスキルを獲得できる計画を立てることが重要です。しかし、派遣する目的や期待する成果が曖昧なまま、社員を海外に送り出してしまう企業も少なくありません。その結果、社員は帰国後に求められる能力や経験を十分に得ることができないまま帰任し、企業と社員の間にギャップが生まれます。 適材適所と適所適材のバランスを取るために 「適材適所」と「適所適材」は対立する言葉ではなく、むしろ補完関係にあります。ゆえに、どちらか一方だけに偏るのではなく、両者のバランスを取ることがグローバル人材育成の成功につながります。 おわりに – 適材適所と適所適材の融合した戦略策定が鍵 グローバル人材育成は、企業の競争力を高める上で欠かせない要素です。しかし、「適材適所」と「適所適材」のどちらかが視点が欠けていたり、どちらか一方に偏っている場合、人材育成の効果は薄れてしまいます。派遣前の計画と帰任後のフォローを両立させることで、企業と社員の双方が満足する結果を得ることができます。 これからの時代、グローバルで活躍できる人材を育てるためには、企業が柔軟で戦略的なアプローチを取ることが必要です。適材適所と適所適材、この両輪を上手に使いこなすことで、持続可能な人材育成が実現するでしょう。 #CornerstoneStrategy #人材育成 #グローバル人材 #駐在員 #社費留学 #人事戦略 #海外事業