最終更新日:2025年9月11日
アメリカの最低賃金 (Minimum Wage) は、単なる「連邦最低賃金$7.25」だけでは理解できません。
連邦・州・都市の法律の三層構造、チップ従業員、若年労働者、障碍者雇用、学生雇用といった特例、更には、RROP (Regular Rate of Pay) との関係まで含めて理解しておかないと、知らぬ間に違反に陥るリスクがあります。
最低賃金違反は、未払い賃金の遡及支払、罰金、集団訴訟につながる可能性があり、在米日系企業においては、米国子会社だけの問題ではなく、日本本社のグローバル人事にも大きな影響を与えます。
本記事では、経営判断、人事制度設計、労務管理の現場で役立つ知識を網羅的に解説します。
目次
連邦最低賃金
連邦最低賃金は2009年以降据え置きが続いており、生活費上昇を反映して多くの州や都市が独自の水準を設定しています。多くの州や都市が定める最低賃金は、連邦最低賃金を上回るケースが大半です。
- 対象: FLSAの適用を受けるnonexempt employees
- 金額: $7.25/時間 (2009年以降据え置き)
- 根拠法: Fair Labor Standards Act (FLSA) 29 U.S.C. §206 1
州・主要都市ごとの最低賃金
アメリカでは、連邦、州、都市の最低賃金が併存します。また、複数の最低賃金に関する法律を殉教する場合、必ず高い水準の方を適用しなければなりません。
アメリカの雇用主は、最低賃金や残業代 (週40時間超の労働に対する割増賃金) の支払いが法律で義務付けられています。例えば、時給制のスタッフや一般事務職などが該当することが多いです。
※州ごとにFLSAよりも厳格な独自のルールを設定している場合があります (例:最低賃金など)。必ず店舗、オフィス等が設置されている州法にも留意しましょう。
以下は、全州+ワシントンDCおよび主要都市の最低賃金を整理した表です。
※細かな適用対象や適用除外などはDOLや各州・都市の公式サイトをご確認ください。

各州の最低賃金2
| 州・地域 | 最低賃金 |
| アラバマ州 | $7.25 (州法なし) |
| アラスカ州 | $13.00 |
| アリゾナ州 | $14.70 |
| カリフォルニア州 | $16.50 |
| コロラド州 | $14.81 |
| コネチカット州 | $16.35 |
| デラウェア州 | $15.00 |
| コロンビア特別区 | $17.95 |
| フロリダ州 | $13.00 ※2026年9月30日に最低賃金が15ドルに達するまで、毎年1ドルずつ上昇。 |
| ジョージア州 | $7.25 (州法が$5.15のため連邦法適用) |
| グアム準州 | $9.25 |
| ハワイ州 | $14.00 |
| アイダホ州 | $7.25 |
| イリノイ州 | $15.00 |
| インディアナ州 | $7.25 |
| アイオワ州 | $7.25 |
| カンザス州 | $7.25 |
| ケンタッキー州 | $7.25 |
| ルイジアナ州 | $7.25 (州法なし) |
| メイン州 | $14.65 |
| メリーランド州 | $15.00 |
| マサチューセッツ州 | $15.00 |
| ミシガン州 | $12.48 |
| ミネソタ州 | $11.13 |
| ミシシッピー州 | $7.25 (州法なし) |
| ミズーリ州 | $13.75 |
| モンタナ州 | $10.55 |
| ネブラスカ州 | $13.50 |
| ネバダ州 | $12.00 |
| ニューハンプシャー州 | $7.25 |
| ニュージャージー州 | $15.49 |
| ニューメキシコ州 | $12.00 |
| ニューヨーク州 | $15.50 |
| ノースカロライナ州 | $7.25 |
| ノースダコタ州 | $7.25 |
| オハイオ州 | $10.70 |
| オクラホマ州 | $7.25 |
| オレゴン州 | $15.05 |
| ペンシルベニア州 | $7.25 |
| ロードアイランド州 | $15.00 |
| サウスカロライナ州 | $7.25 (州法なし) |
| サウスダコタ州 | $11.50 |
| テネシー州 | $7.25 (州法なし) |
| テキサス州 | $7.25 |
| ユタ州 | $7.25 |
| バーモント州 | $14.01 |
| バージニア州 | $12.41 |
| ワシントン州 | $16.66 |
| ウェストバージニア州 | $8.75 |
| ウィスコンシン州 | $7.25 |
| ワイオミング州 | $7.25 (州法が$5.15のため連邦法適用) |
主要都市の最低賃金
| 州 | 都市 | 最低賃金 | 適用開始日 |
| カリフォルニア州 | ウェストハリウッド市3 | $19.65 ※ホテル勤務者は$20.22 | 2025年7月1日 |
| カリフォルニア州 | マウンテンビュー市4 | $19.20 | 2025年1月1日 |
| カリフォルニア州 | エメリーヴィレ市5 | $19.90 | 2025年7月1日 |
| カリフォルニア州 | サニーベール市6 | $19.00 | 2025年1月1日 |
| カリフォルニア州 | サンフランシスコ市7 | $19.18 | 2025年7月1日 |
| カリフォルニア州 | ロサンゼルス市8 | $17.87 (ホテル内勤務者は$22.50) | 2025年7月1日 (2025年9月8日) |
| カリフォルニア州 | サンノゼ市9 | $17.95 | 2025年1月1日 |
| カリフォルニア州 | サンディエゴ市10 | $17.25 | 2025年1月1日 |
| カリフォルニア州 | サンタモニカ市11 | $17.81 (ホテル内勤務者は$21.01) | 2025年7月1日 |
| カリフォルニア州 | バークレー市12 | $19.18 | 2025年7月1日 |
| カリフォルニア州 | エルサリート市13 | $18.34 (産業により細かく設定あり) | 2025年1月1日 |
| カリフォルニア州 | パロアルト市14 | $18.20 | 2025年1月1日 |
| カリフォルニア州 | ロスアルトス市15 | $18.20 | 2025年1月1日 |
| カリフォルニア州 | クペルティーノ市16 | $18.20 | 2025年1月1日 |
| カリフォルニア州 | サンタクララ市17 | $18.20 | 2025年1月1日 |
| カリフォルニア州 | レッドウッド市18 | $18.20 | 2025年1月1日 |
| カリフォルニア州 | ソノマ市19 | $18.02 | 2025年1月1日 |
| カリフォルニア州 | サンタロサ市20 | $17.87 | 2025年1月1日 |
| コロラド州 | デンバー市21 | $18.81 (2026年より$19.29) | 2025年1月1日 |
| イリノイ州 | シカゴ市22 | $16.60 | 2025年7月1日 |
| ミネソタ州 | ミネアポリス市23 | $15.97 (2026年より$16.37) | 2025年1月1日 |
| ミネソタ州 | セントポール市24 | $13.25-15.97 (企業規模による) | 2025年1月1日 |
| ニューヨーク州 | ニューヨーク市25 | $16.50 | 2025年1月1日 |
| ニューヨーク州 | ロングアイランド市・ウェストチェスター市25 | $16.50 | 2025年1月1日 |
| オレゴン州 | ポートランドメトロ26 | $16.30 | 2025年7月1日 |
| オレゴン州 | 都市郡以外26 (Non-urban) | $14.05 | 2025年7月1日 |
| ワシントン州 | シアトル市27 | $20.76 | 2025年1月1日 |
| ワシントン州 | タクウィラ市28 | $20.10-21.10 (企業規模による) | 2025年1月1日 |
| ワシントン州 | シータック市29 | $20.17 | 2025年1月1日 |
| ワシントン州 | バーリエン市30 | $20.16 – 21.16 ※企業規模による | 2025年1月1日 |
チップ従業員 (Tipped Employee)
アメリカでは、レストラン、ホテル、バー、美容業など「チップ文化」が強い業種があります。これらの業種では、従業員の収入の相当部分が顧客から直接支払われるチップに依存しているため、FLSAは雇用主が全額を最低賃金として支払わなくても良い仕組みを設けています。これがチップクレジット制度です。
制度の趣旨
- 消費者が従業員に直接支払うチップを、最低賃金計算に含めて良い
- ただし、チップと雇用主の現金給与を合わせて、最低賃金 (例: 連邦法の$7.25) を下回ってはならない。
- チップが不足する場合は、雇用主が必ず不足分を補填する義務がある
したがって、チップ込みで最低賃金を満たせば良いが、責任は当然、雇用主にあることが大原則です。
実務上の要件
通知義務
雇用主は、チップクレジットを適用する旨を従業員に事前に通知しなければなりません。文書化は必須ではないですが、訴訟や監査時に証明責任を負うのは雇用主であるため、書面通知が実務上の必須対応です。
チップ全額保持義務
従業員はチップを全額保持できなければならず、雇用主が控除したり、流用してはいけません。ただし、チップを全従業員でプールする「チッププール制度」がある場合に限り、接客従業員間での分配は認められています。
チップルールの制限
- 参加できるのは顧客に直接サービスを提供する従業員 (例: サーバー、バーテンダーなど)
- マネージャーや監督者、バックオフィスの従業員を含めてはならない。
- FLSAでは、月に$30以上のチップを受領する従業員に適用。
州法の違い
連邦法はチップ従業員の現金給与の下限額を$2.13 ($5.12のクレジット) としていますが、州によってはより高い基準を設けたり、チップクレジット制度自体を禁止している自治体もあります (例:カリフォルニア州、ネバダ州、オレゴン州、ワシントン州など)。31
もし飲食・サービス業などの分野で米国で事業を行う場合は、州ごとのルールを必ず確認することが不可欠です。
若年労働者 (Youth Minimum Wage)32
制度の趣旨
この制度は、若年者の初期雇用機会を広げることを目的として導入されました。高校生や大学生など、労働市場に初めて参入する層は経験が乏しく、生産性も低いとされるため、雇用主にとっては採用リスクが高くなります。そこで、最初の90日間に限り、通常の最低賃金よりも低い賃金で雇用できるようにすることで、雇用主が若年者を採用しやすくする狙いがあります。
ただし、この制度は、同一の労働をしているが、20歳を境に賃金に差がつくことになるため、近年は、この制度を年齢による差別だと批判する声も出ています。実際にこの制度を活用している雇用主は年々減少傾向にあり、形骸化しています。
制度概要
- 対象: 20歳未満の新規雇用者
- 時給: $4.25
- 適用期間: 雇用開始から90暦日いない
実務上の留意点
- 期間のカウントは、「暦日 (Calendar Days)」で行われるため、勤務日数ではなく、入社日からの日数で判断します。
- 90日が過ぎた時点、または労働者が20歳に達した時点のいずれか早い方から、通常の最低賃金 ($7.25または州法の賃金水準)を支払う義務があります。
特別最低賃金 (Subminimum Wage)33
特定の労働者について、最低賃金未満での雇用を認める例外規定が存在します。対象となるのは、学習者・学生・障害を持つ労働者・学校教育の一環で働く生徒などです。
これらの制度は本来、「雇用機会を広げる」目的で設けられましたが、実際には特別証明書の取得が必須で手続きも煩雑であり、さらに搾取につながるとの批判から廃止の方向にある州が増加してます。
したがって、法律上は現在も存在するけれど、現代の実務ではほとんど使われていない制度です。
この規定を遵守して賃金設定すること自体は違法ではないものの、実態としてほとんど使われていないことに留意し、誤解や誤用をさけることが重要です。
RROPとの関係
最低賃金を理解するうえで欠かすことができないのがRROP (Regular Rate of Pay) です。
RROPは残業代計算の基礎となる金額ですが、同時に「実際に支払われた賃金が最低賃金を下回っていないか」を判断する基準にもなります。
例えば
- 制服代や道具代を給与から控除した結果、実質時給が最低賃金未満になるケース
- ボーナスやインセンティブをRROPに含めず、残業代を少なく算定してしまうケース など
このように、最低賃金は「時給そのもの」ではなく、RROPを通じて残業代の計算と密接に結びついています。
本記事では概要のみに留めますが、RROPの具体的な計算方法や割増賃金との関係については、別記事で詳しく解説します。
コンプライアンスとよくある違反事例
最低賃金に関する違反は、意図的な不払いだけでなく、制度理解の不足や計算ミスから生じるケースが多くあります。特に、在米日系企業では、連邦・州・都市の制度が重なる中で、ルールを見落とすリスクが高まります。
典型的な違反例
- 州や都市の改定を見落とす
連邦水準のまま支払い続け、結果的に不足。 - チップ補填不足
従業員のチップ込み時給が$7.25を下回ったにもかかわらず、雇用主が差額を補わなかった。 - ユース賃金の誤用
90日を超えても$4.25を払い続けてしまう。 - 控除による最低賃金割れ
制服代やツール代を従業員に負担させ、実質的に最低賃金を下回る。 - RROP計算誤り
ボーナスやインセンティブをRROP含めず、残業代不足が発生。
違反時の影響
- 未払い賃金の遡及支払
- 追加罰金や民事制裁金
- 集団訴訟のリスク
- 企業ブランドへのダメージ
最低賃金違反は「一部の従業員の給与計算ミス」が全社的な法務・財務リスクに発展する可能性があります。人事・経営層は、常に最新の法改定をチェックし、給与計算の検証体制を整えることが不可欠です。
まとめ
本記事では、アメリカの最低賃金制度について基本的な事項を紹介しました。
- 連邦・州・都市の三層構造で、常に「最も高い水準」が適用される
- チップ従業員や若年労働者など一部の例外規定はあるが、適用要件は厳格
- 特別最低賃金 (Subminimum Wage) は法律上存在するものの、現代ではほとんど使われていない
- RROPとの関係を理解しないと、最低賃金を満たしていても違反になるリスクがある
- 違反は未払い賃金の遡及支払、罰金、訴訟リスク、ブランド毀損に繋がり得る
法定の最低ラインを正確に理解するとともに、州や都市の改定を継続的にチェックすることが大切です。
参考文献
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- State Minimum Wage Laws | U.S. Department of Labor ↩︎
- Minimum Wage | City of West Hollywood ↩︎
- Mountain View Minimum Wage Ordinance | Mountain View, CA – EconDev ↩︎
- Minimum Wage Ordinance – City of Emeryville, CA ↩︎
- Minimum Wage in Sunnyvale | Sunnyvale, CA ↩︎
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- Office of Wage Standards | Wages LA ↩︎
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- Earned Sick Leave and Minimum Wage Ordinance | City of San Diego Official Website ↩︎
- santamonica.gov – Minimum Wage ↩︎
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- The El Cerrito minimum wage is different than the California minimum wage. | El Cerrito, CA – Official Website ↩︎
- Minimum Wage – City of Palo Alto, CA ↩︎
- Minimum Wage | Los Altos, CA ↩︎
- Cupertino Minimum Wage Cupertino CA ↩︎
- Minimum Wage Ordinance | City of Santa Clara ↩︎
- Minimum Wage and Wage Theft | City of Redwood City ↩︎
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- Minimum Wage | Santa Rosa, CA ↩︎
- Denver’s Minimum Wage in 2025: $18.81/hour – City and County of Denver ↩︎
- City of Chicago :: Minimum Wage ↩︎
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- Minimum Wage | Saint Paul Minnesota ↩︎
- Minimum Wage | Department of Labor ↩︎
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- Minimum Wage – LaborStandards | seattle.gov ↩︎
- 2024-Tukwila-Minimum-Wage-Notice.pdf ↩︎
- City of Seatac Announces 2024 Minimum Wage Adjustments ↩︎
- Minimum Wage – City of Burien ↩︎
- Minimum Wages for Tipped Employees | U.S. Department of Labor ↩︎
- Fact Sheet #32: Youth Minimum Wage – Fair Labor Standards Act | U.S. Department of Labor ↩︎
- 29 USC Ch. 8: FAIR LABOR STANDARDS ↩︎
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